東外大OA「コプト・エジプト語初級II」


第一回 エジプト語の歴史とアルファベット

本日のプログラム

1 基本知識の確認 ―― 2 もう少し細かい背景知識 ―― 3 自己紹介  ――  4 アルファベット 


1 基本知識

  • コプト・エジプト語(Coptic Egyptian)は、コプト語(Coptic)と通常は呼ばれる
  • エジプト語(Egyptian)の最終段階
    • 広義の「古代エジプト語」・・・コプト語を含む
    • 狭義の「古代エジプト語」・・・コプト語を含まない
  • エジプト語の系統
  • コプトとは?
    • 古代ギリシア語のΑἴγυπτος Aigyptos アイギュプトスがアラビア語に入ってqibṭ になり、それが、ラテン語など西洋諸語に入ってCoptになったと言われる
      • 古王国時代の首都メンフィスの雅名である狭義の古代エジプト語のḥwt-kꜣ-ptḥ 「プタハ神のカー(魂)の館」が語源と言われる
    • 上エジプトの都市、Coptosが語源との説も
  • エジプト語の歴史的発展
    • https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2018/08/31/hieroglyph-1/
    • コプト語は、ヘレニズム文化の中心都市アレクサンドリアの市民をはじめとする当時の支配層・エリート層が使うギリシア語(上位言語)に対する、民衆の口語(下位言語)から発達した
    • ギリシア語からの借用語が、開いたクラス・内容語(名詞、動詞、形容詞、副詞)だけでなく、閉じたクラス・機能語(前置詞、接続詞、不変化詞)にも及ぶ
エジプト語の種類時期文字時代
原エジプト語紀元前32世紀頃~
紀元前27世紀頃
原エジプト文字先王朝時代・初期王朝時代・古王国時代
古エジプト語紀元前27世紀頃~
紀元前21世紀頃
ヒエログリフ & 
ヒエラティック
古王国時代・第1中間期
中エジプト語紀元前23世紀頃~
紀元後4世紀
ヒエログリフ &
ヒエラティック
中王国時代・第2中間期・新王国時代・第3中間期・末期王朝時代・プトレマイオス期・ローマ期
新エジプト語紀元前14世紀頃~
紀元前7世紀頃
ヒエラティック &
ヒエログリフ
新王国時代・第3中間期
民衆文字
エジプト語
紀元前8世紀頃~
紀元後5世紀
デモティック(民衆文字)
第3中間期・末期王朝時代・プトレマイオス期・ローマ期
コプト・エジプト語紀元後3世紀~現在(典礼言語として)
日常言語としては17世紀に途絶えた(?)
現在言語復興運動が盛ん
コプト文字(ギリシア文字+民衆文字少数)ローマ期・ビザンツ期・イスラーム期・現代エジプト(およびディアスポラ)
エジプト語の歴史

2 もう少し細かい背景知識

  • コプト語には、6つ以上の方言がある
  • 地図など:https://www.academia.edu/9113618/The_Egyptian_Coptic_language_its_setting_in_space_time_and_culture
  • 下エジプト方言と上エジプト諸方言に大別される
    • 下エジプト方言
      • ボハイラ方言(ボハイル方言、ベヘイラ方言)
        • el-Boḥaira(ナイルデルタ西部の地域)
        • ワディ・エル=ナトルーンの言語
        • コプト正教会内でワディ・エル=ナトルーンの修道院(聖マカリオス修道院、聖ピショイ修道院、シリア人修道院など)の影響力が強くなり、総主教座がアレクサンドリアからカイロに移ったことにより、コプト語の共通語の地位がサイード方言からボハイラ方言に
        • 現代のコプト正教会の典礼で用いられている
        • 帯気音や、特別な複数定冠詞ⲛⲉⲛ- < n3 n など、古い文法を保存している
        • イクラディユース・ラビーブの教科書ⲛⲉⲙⲁⲛ ⲥⲁϫⲓなど、19世紀末以来から続くコプト語復興運動で「復興」されている(ただし、新しい語、キリル4世の教会改革発音、簡略化された新しい文法などを用いる)
        • 聖書翻訳、典礼書、祈祷書、聖人伝などが残っている
    • 上エジプトの主要な諸方言
      • ファイユーム方言
        • ファイユーム盆地の方言
        • 流音がラムダ [l] に統一される(ラムダシズム)
        • ファイユーム盆地の諸修道院の遺跡などから数多くの写本やオストラカが見つかる
      • オクシリンコス方言(メソケーメ方言、中部エジプト方言)
        • 『マタイによる福音書』、『詩篇』(ムディル写本)などで知られる
      • サイード方言(サヒド方言、テーベ方言)
        • 従来はテーベの方言だとみなされていたが、Funkらの研究によって、中部エジプトのエル=アシュムネイン(シュムーン、ヘルモポリス=マグナ)が発祥であることが言われる
        • 4世紀ころからコプト語の共通語(コイネー)の地位を占める
        • 近現代を除き、コプト語で残っている文献の大部分がこの方言で書かれる
        • 初級IIではこの方言を勉強する
        • 原サイード方言(古テーベ方言)
        • 文学ジャンル
          • 聖書翻訳(ギリシア語新約聖書および、70人訳ギリシア語70人訳旧約聖書から)
          • 典礼文、祈祷書など教会生活で用いる書物
          • 修道文学(聖アントニオスの手紙、聖パコミオスの手紙、聖シェヌーテの手紙と説教、聖ベーサの手紙と説教など)
          • 聖人伝(多くはギリシア語もしくはシリア語からの翻訳だが、『聖ヒラリア伝』などオリジナルのものも)
          • グノーシス主義文学(ナグ・ハマディー写本群、ベルリン・グノーシス・コーデックスなど)
          • 日常で使われたレシート、メモ、学校での文字練習、手紙など
      • リコポリス方言(準アクミーム方言)
        • マニ教文献(メディネット・エル=マーディー写本群、ダクラ・オアシスのケリス出土文献)、ナグ・ハマディー写本群の一部(『闘技者トマスの書』など)、『ヨハネの福音書』の翻訳などが残る
        • ナグ・ハマディ―写本のサイード方言文献は、この方言の影響が色濃く残る
        • 本講座で最後に読む『トマスによる福音書』などのナグ・ハマディー写本群のサイード方言文献は、特に母音がこの方言の影響を受けている(リコポリス方言なまりのコプト語サイード方言)
      • アクミーム方言
        • サイード方言に置き換わるまで、アクミーム以南で用いられた。
        • テーベ西岸出土のパピルスやオストラカ
        • キリスト教の外典など
      • ほかにも方言Vや方言Hなど、様々な方言が、FunkやKasserなどによって指摘されている

3 自己紹介タイム  ☕

1人1~2分くらいで自己紹介(コプト語を学ぼうと思ったきっかけなど)を教えていただければ幸いです


4コプト文字を学ぼう(復習しよう)

  • サイード方言の場合は、数字を除けば、ギリシア文字22文字とデモティック6文字
  • 最初の画像は、宮川の2014年の京都大学での授業より

4.1 ローマ字に似ている文字

コプト文字名前発音
アルファa
ベータv
エプシロン広いe
イオータi
カッパk
ミューm
ニューn
オミクロン(小さいオー)広いo
タウt
ゼータz

4.2 ローマ字にはないがギリシア文字にある文字

コプト文字名前発音
デルタd
ラムダl
ピー(パイ)p
ローr
シグマs
ユプシロンw
ギリシア語系単語で時々i
オメガ狭いo
エータ狭いe
テータ(シータ)th (tとh)
フィー(ピー)ph (pとh)
キー(カイ)kh (kとh)
プシー(プサイ)ps
クシー(クサイ)ks

4.3 デモティック 由来の文字

コプト文字名前発音
ϥファイf
ϣシャイsh (シュの子音)
ϩホリh
ϫジャンジャty(テャの子音)
ϭキーマky(キャの子音)
ϯティti

4.4 特別な読みかたをする文字の組み合わせ

※母音字重複(ⲁⲁ, ⲏⲏ, ⲉⲉ, ⲟⲟ, ⲱⲱ, ⲟⲩⲟⲩ, ⲉⲓⲉⲓ)は最近では、宮川はPeustやAllenらの長母音説を支持。例:ⲁⲁ アー

コプト文字名前発音
ⲉⲓエプシロンとイオタi
ⲟⲩオミクロンとユプシロンu
ⲛ̄ニューの上にスープラリニアーストローク
(※スープラリニアーストロークはⲃⲗⲙⲛⲣの上が多い)
前に軽い曖昧母音を添える
ⲅⲅ二重のガンマng
ⲁⲁ, ⲉⲉ, ⲏⲏ, ⲟⲟ, ⲱⲱ
ⲟⲩⲟⲩ, ⲉⲓⲉⲓ
母音字重複その母音の長母音

4.5 読んでみよう

番号コプト語意味
1ⲁⲛⲟⲕ
2ⲅⲁⲃⲣⲓⲏⲗガブリエル
3ⲥⲱⲧⲙ̄聞く
4ⲉⲩⲁⲅⲅⲉⲗⲓⲟⲛ福音
5ϭⲓϫ
6ϣⲁϣϥ7
7ⲯⲓⲧ9
8ⲑⲓⲉⲣⲟⲩⲥⲁⲗⲏⲙエルサレム
9ⲭⲣⲓⲥⲧⲟⲥキリスト
10ⲓⲏⲥⲟⲩⲥイエス
11ⲫⲁⲣⲓⲥⲁⲓⲟⲥパリサイ人
12ⲝⲟⲩⲣ指輪
13ⲣⲱⲙⲉ男、人
14ⲥϩⲓⲙⲉ
15ϣⲏⲣⲉ息子、男の子
16ϣⲉⲉⲣⲉ娘、女の子
17ⲛⲟⲩⲧⲉ
18ⲛ̄ⲧⲱⲣⲉ女神
19ϣⲁⲁⲣ
20ⲙⲛ̄ⲧⲣⲙ̄ⲛ̄ⲕⲏⲙⲉエジプト語


第二回 コプト語の読み方と言語類型論的特徴

本日の予定:
1 コプト文字の読み方の復習 ー 2 コプト語の言語類型論的特徴 ー 3 コプト語の名詞について 


1 コプト文字の読み方の復習📚

白の修道院院長ベーサ「目を覚していることについて」の冒頭部分(文章は5世紀、写本は8世紀)

写本の写真               翻刻

MONB.BA写本、白の修道院(ソハーグ)出土、羊皮紙、
ナポリ国立ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世図書館蔵

文法注釈と日本語訳

宮川創「コプト語サイード方言の言語資料と文法注釈 ―ナポリ・国立ヴィットーリオ・エマヌエーレ3 世図書館蔵・ベーサによるテクストの断片―」(『言語記述論集』第10号, 2018、271 – 320頁)より

 ⲉⲓ /i/~/j/ ⲓ /i/~/j/ ⲉⲓⲉⲓ /i:/ ⲓⲉⲓ /i:/ ⲓⲓ /i:/ ⲟⲩ /u/ ⲟⲩⲟⲩ /u:/ ⲟⲟⲩ /ɔʊ/

状況節化? 焦点化? 絶単男? 

コプト・エジプト語には、ヨーロッパの諸言語や、東アジアの諸言語では、聞き慣れないような文法用語が多いです。

⇒ この授業では、特に、日本でよく学ばれている言語にはない項目を重点的にわかりやすく解説することに重きを置きます。

⇒ よく学ばれている言語と共通する特徴は、それらの言語の例を交えながら、お話しします。


コプト・エジプト語の言語類型論的特徴

言語類型論とは?

言語類型論は、言語学の一分野です。

言語学は、言語を研究する学問ですが、言語類型論は、世界に7000ほどあると言われる(言語の定義で変化)諸言語を音声的・文法的な様々な特徴で類型化(ある種のカテゴリー化)し、それぞれの類型の相互関係や、それに基づく言語の普遍性を探究します。

例えば、SOV型の言語は、後置詞型が多く(反例:現代ペルシア語)、VSO型の言語は、前置詞型が多い、などです。

言語類型論の様々な型を知れば、コプト・エジプト語は基本語順は○ ○ 型、母音目録は ○ ○ 型、名詞は ○ ○ 型など、型におとしこめ、文法の概略をざっくりと知ることができます(もちろん、その言語内で例外はたくさんあるので、こういった類型化による行き過ぎた単純化には十分注意してください)。

コプト語サイード方言の音韻論

  • 本来語では、閉鎖音で有声・無声の対立がない
    • サイード方言では、閉鎖音の有気・無気の対立がないが、ボハイラ方言(再建音)ではある
      • 有声・無声の対立がない言語・・・フィンランド語、 韓国語(ただし、有気・無気・咽頭化の違いあり)
    • 本来語の子音音素
      閉鎖音 ⲡ /p/, ⲧ /t/, ϫ/tʲ/, ⲕ /k/, ϭ /kʲ/ 
      摩擦音  ϥ /f/, ⲥ /s/, ϣ /ʃ/, ϩ /h/
      共鳴音  ⲃ /ʋ/, ⲣ /r/, ⲗ /l/, ⲙ /m/, ⲛ /n/
      半母音 ⲉⲓ/ⲓ /j/, ⲟⲩ/ⲩ /w/
    • 条件異音 
      ⲛⲅ [ŋ] (/n/), ⲍ [z] (/s/)   本[ɴ] サンバ [m] サンゴ [ŋ] サンタ [n]
  • 強勢音節では7母音体系(Peust、Allen、宮川など)、無強勢音節では4母音体系
    • 強勢音節母音(短母音・長母音の区別あり) 
      短母音 ⲉⲓ/ⲓ /ˈi/, ⲏ /ˈe/, ⲉ /ˈɛ/, ⲁ /ˈɑ/, ⲟ /ˈɔ/, ⲱ /ˈo/, ⲟⲩ /ˈu/
      長母音 ⲉⲓⲉⲓ /ˈiː/, ⲏⲏ /ˈeː/, ⲉⲉ /ˈɛː/, ⲁⲁ /ˈɑː/, ⲟⲟ /ˈɔː/, ⲱⲱ /ˈoː/, ⲟⲩⲟⲩ /ˈuː/
    • 非強勢音節母音(母音の長短の区別無し)
      ⲉⲓ/ⲓ /ɪ/, ⲉ /ə/, ⲁ /ɐ/, ⲟⲩ /ʊ/ 

    • ⲛⲅⲙⲉⲣⲉⲡⲉⲧϩⲓⲧⲟⲩⲟⲕ
      /ŋg.mə.rə.pət.hɪ.ˈtwɔk/ 
      「汝の隣人を愛せよ」
      • 強勢音節と非強勢音節で来られる母音が決まっている言語・・・ロシア語、ポルトガル語
  • 成節子音 
    • 音節の核は、通常は母音であるが、コプト語では子音もなりうる
    • ⲡⲧⲃⲧ /ptʋt/ 「その魚」
    • ⲣ /r/, ⲗ /l/, ⲃ /ʋ/, ⲙ /m/, ⲛ /n/ が成節子音になりやすいが、条件によってはどの子音も成節子音になりうる
    • スープラリニアーストロークで成節子音が示されやすい ⲙ̄ /m/
    • 音声実現の際にシュワー/ə/が入りやすい
      • 共鳴音や摩擦音などで成節子音がある言語 ロシア語、チェコ語、宮古語大神方言 ksks 「月」pstu 「人」
      • 無声閉鎖音でも成節子音になることができる言語 タシルハイト・ベルベル語(シルハ語)
  • 同化
    • ⲛ̄は、次に来る子音に同化しやすい
    • ⲙ̄-ⲡ-ⲣⲱⲙⲉ 「その男を」
      /m-p-romə/

第3回

本日の予定

  • コプト語サイード方言の音韻論の復習
  • コプト語サイード方言の形態論・統語論の類型論的特徴
  • コプト語サイード方言の名詞のさわり
  • コプト・エジプト語サイード方言の文字と写本、宗教文化について学ぶ

コプト語サイード方言形態論・統語論

  • 名詞は男性名詞と女性名詞がある(性は2項対立型・・・・フランス語、スペイン語、アラビア語)
    • 男性名詞 ⲣⲱⲙⲉ「男」, ⲉⲓⲱⲧ「父」, ϣⲏⲣⲉ「男児・息子」, ⲥⲟⲛ「兄・弟」, ⲕⲁϩ「地」, ⲙⲟⲟⲩ「水」
    • 女性名詞 ⲥϩⲓⲙⲉ「女」, ⲙⲁⲁⲩ「母」, ϣⲉⲉⲣⲉ「女児・娘」, ⲥⲱⲛⲉ「姉・妹」, ⲡⲉ「空」, ⲙⲣⲱ「港」
    • 男女同形 ϩⲙ̄ϩⲁⲗ「奴隷・召使い」
  • 名詞は一部、複数形を持つ名詞があるが、多くの名詞は、数の標示は冠詞のみで行う(数は2項対立型・・・英語、ドイツ語、フランス語)
    • ⲟⲩ-ⲣⲱⲙⲉ「(ある一人の)男」
    • ϩⲉⲛ-ⲣⲱⲙⲉ「(ある複数の)男たち」
    • 男単・女単・複で別々の形を持つ語彙の例(ただし、複数形の代わりに単数形を使い複数は冠詞で表す事も多い)
      • ⲛⲟⲩⲧⲉ 「神(男単)」
      • ⲛ̄ⲧⲱⲣⲉ「神(女単)」
      • ⲉⲛⲧⲏⲣ「神(複)」
  • 定冠詞と不定冠詞がある(定性は2項対立型・・・英語、ドイツ語、フランス語)
    • 定冠詞は男性単数形 (ⲡ-)、女性単数形 (ⲧ-)、複数形 (ⲛ̄-) の3項対立型
      • ⲡ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ 「(その)男の召使い」, ⲧ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ「(その)女の召使い」 , ⲛ̄-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ「(それらの)召使いたち」
    • 不定冠詞は単数形と複数形の2項対立型
      • ⲟⲩ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ, ϩⲉⲛ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ
  • 形容詞は、N Adjの順だが、極少数しか残っていない
    • ϣⲏⲣⲉ     ϣⲏⲙ 「男の赤ちゃん」
      息子/男児 小さい
  • 動詞は不定形・状態形・命令形・分詞形に分かれる
    • 状態形・命令形・分詞形を持つ動詞は一部
    • 不定形は、絶対形・連語形・人称形に分かれる
      • 例 ⲉⲓⲣⲉ「する」
        絶対形 ⲉⲓⲣⲉ /irə/、連語形 ⲣ̄- /r/、人称形 ⲁⲁ- /ɑː/
  • 名詞抱合がある
    • ϫⲓ-ϯⲡⲉ   「~を味わう」
      受ける-味
    • ⲣ̄-ⲣ̄ⲣⲟ  「~を支配する」
      なす-王

コプト語の名詞

男性と女性の区別

コプト語の名詞には男性と女性の区別があります。

そして、見分け方は、とくにありません。

もちろん、人間を指す名詞の場合、その性別で男性と女性が区別されることが普通です。

ですが、月、太陽、大地、空、水、水瓶、ラクダ、髪など、あらゆる名詞が男性か女性のどちらかにふりわけられています。

  • 月は、ⲟⲟϩ で 男性
  • 太陽は、ⲣⲏ で 男性
  • 大地は、ⲕⲁϩ で 男性
  • 空は、ⲡⲉ で 女性
  • 水瓶は、 ϭⲗⲙⲁⲓ で 男性
  • ラクダは、 ϭⲁⲙⲟⲩⲗ で 男性
    (雌ラクダと特別に言いたいときはϭⲁⲙⲁⲩⲗⲉで女性)
  • 肌は、ϣⲁⲁⲣ で 男性 

です。意味的にはヒントがないですし(エジプト神話を知っていれば自然物の性は多少推測できるかも)、音声的にもヒントがありません(エジプト語の音韻変化の規則がわかれば多少推測できるかも)。


写本・文字・宗教文化

コプト語写本

  • 主要媒体 
    • 3世紀以前パピルス
    • 4-7世紀 パピルスと羊皮紙 
    • 8世紀以降 羊皮紙 
    • 10世紀以降 紙
  • 文字
    • プトレマイオス朝から3世紀頃まで・・・Old Coptic(古コプト文字)文献
      • 民衆文字エジプト語の文法だが、ギリシア文字+数多くの民衆文字で書記
      • 古代エジプトの神々への祈祷や呪術など
      • ⲟⲩⲥⲓⲣⲉ オシリス 
    • 3〜4世紀頃に書記法が標準化
      • 移行段階・・・古テーベ方言『箴言』 (4世紀)
      • 様々な正統教会の聖書の翻訳
      • マニ教文献
      • ナグ・ハマディ文書などのグノーシス主義文献
    • シェヌーテ(白の修道院連合の修道院長、在職:385年ー466年)
      • コプト語最大の著述家
      • 最も標準的なコプト語サイード方言
      • ヘブライ大学名誉教授Ariel Shisha-Halevyの研究で有名

 

宗教文化

  • ガリラヤ、サマリア、ユデアにおけるイエスの伝道(28〜30 CE)
  • 使徒、使徒教父たちの伝道(福音記者マルコによるエジプト伝道? 1世紀)
  • アレクサンドリア教理学校
    • 2世紀 アレクサンドリアのクレメンス (伝承ではコプト文字を創始)
    • 2〜3世紀 オリゲネス(アレクサンドリア学派の最大の神学者・後に異端扱いに)
  • 3〜4世紀に最盛期 グノーシス主義キリスト教 グノーシス=「知識・認識」
    • 善=光=霊 vs 悪=闇=肉の二元論
    • 悪・造物主=旧約聖書の神 vs 善・偉大なる父=新約聖書の神 の対比
      • この世界は偽の神・造物主によって作られた悪しき世界だが、人間の本質は、善を有する
      • →人間の本質を認識し、悪しき世界を脱し、善なる光の世界への回帰を目指す
    • 実際は様々な派があった
      • 一番よく知られているのはヴァレンティノス派。
      • その他、バシレイデス派、セツ派、オフィス派、バルベーロー派など
      • キリスト仮現論・・・キリストは霊であり、キリストの肉体は幻
    • エジプトの修道院でグノーシス主義文献の写本が製作されていた?
    • ⇨聖書の正典の確立とともに隠された?
    • ⇨コプト語のナグ・ハマディ写本群(4世紀)

キリスト教「正統教会」

  • 4世紀にはグノーシス主義諸派、メリティオス派キリスト教、マニ教、エジプト多神教、ヘレニズムの宗教を破り、ローマ帝国最大の宗教へ
  • 4~7世紀 五本山時代 
    • 五本山・・・エルサレム、アンティオキア、アレクサンドリア、ローマ、コンスタンティノープル
    • エジプトは、アレクサンドリア総主教庁の管轄
    • 4~5世紀の有名なアレクサンドリア総主教
      • アタナシオス(ニカイア公会議)
      • キュリロス(エフェソス公会議)
      • ディオスコロス(カルケドン公会議)
    • 367年のアタナシオスの復活祭の手紙
      • キリスト教の聖書(旧約聖書と新約聖書)に入る書物をほぼ決定
      • 一説によれば、パコミオス派修道僧たちがグノーシス主義に関する「異端」の書物を入れた壺をナグ・ハマディの土中に隠す(?)→ ナグ・ハマディ文書
    • 4〜5世紀・・・公会議の時代
      • 主要な公会議  
        • ニカイア公会議
          • アタナシオス派 イエス・キリストは神であり人、三位一体 vs. アレイオス派 イエス・キリストは神で人であるが、父なる神よりかは神性は劣る 
        • エフェソス公会議
          • ネストリオス派  マリアは神の母とは呼べない vs. キュリロス派 マリアは神の母だ  
        • カルケドン公会議
          • 合性論派(miaphysite) イエス・キリストの神性と人性は合一した vs. 両性論派 イエス・キリストは完全な神性と完全な人性を持つ
          • 単性論(monophysite)はイエス・キリストの人性は神性に吸収されたとする考え方で、カルケドン派による非カルケドン派への誤解(あるいは意図的な誤解)
      • 「教皇」(アレクサンドリア総主教とローマ総主教のみに許された称号)
      • カルケドン公会議後エジプトにおける「正統教会」の分裂 (非カルケドン派=合性論=コプト正教会 vs. カルケドン派=両性論=東方正教会アレクサンドリア総主教庁)
      • エジプトの非カルケドン派は、カルケドン派と抗争しながら、現代のコプト正教会に至る
      • 現在のエジプトには、コプト正教会(合性論派=非カルケドン派)の教皇 と 東方正教会のアレクサンドリア総主教庁(両性論派=カルケドン派)の教皇が二人

エジプトで発達したキリスト教修道制

  • マニ教やメリティオス派キリスト教の影響??(かなり疑問あり)
  • 独住制及び半独住制
    • テーベのパウロス(独住)  
    • アントニオス (独住)  
    • 様々な隠遁者たち(スケーティスなど;『師父たちの金言』;独住制とケリア) 
  • 共住制と修道院の発展
    • パコミオス(上エジプト・タベンネシなど、共住修道制の創始者)
    • シェヌーテ(上エジプトに大修道院;上エジプトのキリスト教化を促進)
  • 写本生産センターとしての修道院
    • 白の修道院(ソハーグ、アパ・シェヌーテ修道院)
    • 大天使ミカエル修道院(ファントーウ / アル=ハムーリー、ファイユーム)
  • 他に重要な遺構となった修道院
    • エピファニオス修道院(テーベ西岸;デイル・エル=バハリの名前の由来)
    • イェレミアス修道院(サッカラ;コプト博物館の所蔵品)
  • 現在重要な修道院
    • ワディ・ナトルーンの4大修道院
      • マカリオス修道院
      • ビショイ修道院
      • バラモス修道院
      • シリア人修道院
    • 聖都アブー・ミーナーの修道院(世界遺産)

その他コプト語魔術文書(キリスト教民間伝承、グノーシス主義、ヘレニズム、エジプト多神教などの影響)

  


コプト・エジプト語初級II 第四回

本日の予定 (1)先週の残り (2)名詞の性と数 (3)定冠詞と不定冠詞と指示冠詞(4)人称接辞と所有冠詞

(2) 名詞の性と数

おさらい。コプト語の名詞の性と数は、定冠詞を見たらわかる。

ⲡ-ⲥⲟⲛ     ⇨ ⲡ- は定冠詞男性単数形だから、ⲥⲟⲛは男性単数

ⲧ-ⲥⲱⲛⲉ   ⇨ ⲧ- は定冠詞女性単数形だから、ⲥⲱⲛⲉは女性単数

ⲛ̄-ⲥⲛⲏⲩ  ⇨ ⲛ̄- は定冠詞複数形だから、ⲥⲛⲏⲩは複数 (ただし、ⲛ̄-ⲥⲟⲛ、ⲛ̄-ⲥⲱⲛⲉも可能)

次は男女・単複同形の名詞です。

ⲡ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ

ⲧ-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ

ⲛ̄-ϩⲙ̄ϩⲁⲗ

次の性と数を考えてください。

ⲡⲛⲟⲩⲧⲉ

ⲧϩⲁⲗⲁⲥⲥⲁ ⲑⲁⲗⲗⲁⲥⲁ > ⲧ-ϩⲁⲗⲗⲁⲥⲁ 再解釈

ⲛ̄ⲣⲱⲙⲉ

ⲛⲉ-ⲭⲣⲓⲥⲧⲓⲁⲛⲟⲥ παρθενος ⲧ-ⲡⲁⲣⲑⲉⲛⲟⲥ 乙女/処女

ⲧⲉⲥϩⲓⲙⲉ    ⲥϩⲓⲙⲉ 「女」   ϩⲓⲙⲉ「妻」

ⲟⲩⲛⲟⲩⲧⲉ 「一柱の神」 ⲟⲩⲛⲟⲩϯ ⲛⲟⲩⲱⲧ 「唯一の神(ボハイラ方言)」

ⲧ-ϭⲁⲙⲁⲩⲗⲉ

ⲡⲉ-ϩⲟⲟⲩ その日

ⲡⲓⲥⲣⲁⲏⲗ

ⲙ̄-ⲙⲟⲟⲩ ⲛ̄ ⇨ ⲙ̄ /ⲡ or ⲙ   定・男・複 「水」

ϩⲉⲛⲧⲃ̄ⲧ  不定・男・複 「魚」

ⲛ̄ⲥⲟⲛ 定・男・複「兄弟たち」

(3) 定冠詞と指示冠詞

定冠詞は 男性単数 ⲡ- / ⲡⲉ- 女性単数 ⲧ / ⲧⲉ- 複数 ⲛ̄- / ⲛⲉ- / ⲙ̄-

不定冠詞は 単数 ⲟⲩ- 複数 ϩⲉⲛ- (稀にϩⲛ̄- / ϩⲙ̄-)

でしたね。

コプト語には、ほかにも冠詞があります。 主なものとして指示冠詞と所有冠詞です。

ここでは指示冠詞を覚えます。

指示冠詞は以下の通りです。

男性単数 ⲡⲉⲓ̈- 女性単数 ⲧⲉⲓ̈- 複数 ⲛⲉⲓ̈-

時々 ⲡⲉⲓ- / ⲡⲉⲉⲓ- , ⲧⲉⲓ- / ⲧⲉⲉⲓ- , ⲛⲉⲓ- / ⲛⲉⲉⲓ- とも綴られます。

ⲉⲓは通常[ɪ]で発音されますが、イオタの上にトレマがあると、その前のエプシロンも読まれ、[əɪ]と発音されます。

この指示冠詞は、日本語だと、「この、その、あの」と訳されます。

これは「感情的な指示詞」(ボハイラ方言の遠称)と呼ばれ、感情の大きな動きを伴う指示詞です。

例えば、イスラエルの民にとってずっと待ち侘びていた、預言者たちが預言していた、救世主が現れたとするニュースを聞いた時に「あ、あの救世主が、ついに・・・!」みたいな感じで驚きなど様々な感情を入れているものです。

感情的な指示冠詞

男性単数 ⲡⲓ- 女性単数 ϯ- / ⲧⲓ- 複数 ⲛⲓ-

日本語では1体1対応するものはないので、とりあえず文脈にあえば、「かの」と訳そうと思います。

ⲡⲉⲓ̈ⲥⲟⲛ 「この・その・あの兄弟」

ⲧⲉⲓ̈ⲥⲱⲛⲉ 「この・その・あの姉妹」

ⲛⲉⲓ̈ⲥⲛⲏⲩ 「これらの・それらの・あれらの兄弟たち」

ⲡⲓⲥⲟⲛ 「かの兄弟」

ϯⲥⲱⲛⲉ 「かの姉妹」

ⲛⲓⲥⲛⲏⲩ 「かの兄弟たち」

よく見ると、ⲡ- ⲧ- ⲛ-の部分は定冠詞と同じですね。これらを定冠詞と全く同じ形態素と解釈して、後の-ⲉⲓ̈-や-ⲓ-を指示性を強める形態素と考えても問題ないです。指示されているものは通常は定なので。

ⲡ-ⲉⲓ̈-ⲥⲟⲛ 定-指示-兄弟 

(4)人称接尾辞 と 所有冠詞

コプト語では人称接尾辞が非常に多用されます。

人称接辞は、私、あなた、など人称を指しますが、所有、主語、目的語など様々な機能で使われます。

以下が人称接尾辞(接中辞にもなる)の一覧です。

人称・性・数人称接辞
1人称単数「私」 -ⲓ / -ⲉⲓ / -ⲓ̈ / -ⲧ(語中で-ⲁ-。語尾でⲧの後でなし)
2人称男性単数「貴方」-ⲕ / -ⲕ̄
2人称女性単数「貴女」-ṯ > -t > なし-ⲉ / -なし
3人称男性単数「彼 / それ」-ϥ / -ϥ̄
3人称女性単数「彼女 / それ」-ⲥ / -ⲥ̄
1人称複数「私たち」-ⲛ / -ⲛ̄
2人称複数「あなたたち」-ⲧⲛ̄ / -ⲧⲏⲩⲧⲛ̄
3人称複数「彼ら/それら」-ⲩ / -ⲟⲩ / -ⲥⲟⲩ
膠着語(日本語、モンゴル語、朝鮮語、コプト語、ケチュア語、トルコ語) 
屈折語( ギリシア語、ラテン語、ロシア語、サーミ語、古英語)
孤立語(中国語・現代英語・ヴェトナム語)
am-ō 「私は愛する」(現在時制・能動態・直説法・1人称単数)

一部の名詞、特に特別な身体部位名詞は、人称接辞を直接つけて、所有を表します。

ϫⲱⲓ 「私の頭」

ϫⲱⲕ 「貴方の頭」

ϫⲱ 「貴女の頭」

ϫⲱϥ「彼の頭」

ϫⲱⲥ「彼女の頭」

ϫⲱⲛ「私たちの頭」

ϫⲱⲧⲛ̄「あなた方の頭」

ϫⲱⲟⲩ「彼らの頭」

ただし、殆どの名詞の所有表現は、所有冠詞によって行われます。所有冠詞は、

定冠詞+人称接尾辞 の組み合わせです。

↓所有者 \ 被所有者→ 男性単数女性単数複数
1人称単数「私の」ⲡ-ⲁ-ⲧ-ⲁ-ⲛ-ⲁ-
2人称男性単数「貴方の」ⲡⲉ-ⲕ-ⲧⲉ-ⲕ-ⲛⲉ-ⲕ-
2人称女性単数「貴女の」ⲡ-ⲉ-ⲧ-ⲉ-ⲛ-ⲉ-
3人称男性単数「彼の」ⲡⲉ-ϥ-ⲧⲉ-ϥ-ⲛⲉ-ϥ-
3人称女性単数「彼女の」ⲡⲉ-ⲥ-ⲧⲉ-ⲥ-ⲛⲉ-ⲥ-
1人称複数「私たちの」ⲡⲉ-ⲛ-ⲧⲉ-ⲛ-ⲛⲉ-ⲛ-
2人称複数「あなたたちの」ⲡⲉ-ⲧⲛ̄-ⲧⲉ-ⲧⲛ̄-ⲛⲉ-ⲧⲛ̄-
3人称複数「彼らの」ⲡⲉ-ⲩ-ⲧⲉ-ⲩ-ⲛⲉ-ⲩ-

次の表現をコプト語訳してください

(1) 私の兄弟  ⲡⲁⲥⲟⲛ. ⲡⲉⲛⲥⲟⲛ

(2) 私の姉妹. ⲧⲁⲥⲱⲛⲉ. ⲧⲉⲧⲛ̄ⲥⲱⲛⲉ

(3) 私の兄弟たち. ⲛⲁⲥⲛⲏⲩ. ⲛⲉⲩⲥⲛⲏⲩ


第5回授業

コプト・エジプト語サイード方言の代名詞と形容詞について学ぶ

まず、皆さん、(コプト正教会の)クリスマスおめでとうございます!

ちょっとYouTubeでクリスマス礼拝の様子を見てみましょう。


コプト語の代名詞

コプト語の代名詞としては、指示代名詞、独立人称代名詞、拘束人称代名詞、接尾人称代名詞(人称接尾辞)、主語接頭人称代名詞(人称接頭辞)、ネクサス代名詞(コピュラ)、疑問代名詞、(不定代名詞、所有代名詞)がある。人称接尾辞に関しては、前課で習った。まず、独立人称代名詞について説明する。


独立人称代名詞

単数複数
1人称ⲁⲛⲟ-ⲕ 「私」 ⲁⲛⲟ-ⲛ「私たち」
2人称ⲛ̄ⲧⲟ-ⲕ(男)「貴男」・ⲛ̄ⲧⲟ(女)「貴女」ⲛ̄ⲧⲱ-ⲧⲛ̄「あなた方」
3人称ⲛ̄ⲧⲟ-ϥ(男)「彼」・ⲛ̄ⲧⲟ-ⲥ(女)「彼女」ⲛ̄ⲧⲟ-ⲟⲩ「彼ら」

2人称・3人称に関しては、ほぼ、ⲛ̄ⲧⲟ-に人称接尾辞がついた形である。

この独立人称代名詞は、名詞述語文で使われたり、動詞述語文で強調や焦点の機能で使われたりする。ただし、動詞述語文で通常主語や目的語の項として用いられるのは、人称接頭辞および人称接尾辞である。

名詞述語文では、主語にも目的語にもなれる。名詞述語文にはいろいろな種類があるが、ここでは最もシンプルな、「名詞A 名詞B」で「名詞Aは名詞Bである」という文を習う(ゼロコピュラ文)。

練習問題

  1. ⲁⲛⲟⲕ ⲡⲉⲧⲣⲟⲥ 「私はペテロです。」
  2. ⲛ̄ⲧⲟⲕ ⲓⲏⲥⲟⲩⲥ 「あなたはイエスです」
  3. ⲛ̄ⲧⲟ ⲙⲁⲣⲓϩⲁⲙ 「あなたはマリアです。」
  4. ⲛ̄ⲧⲟϥ ⲡⲣⲱⲙⲉ  「彼はその男です」
  5. ⲛ̄ⲧⲟⲥ ⲧⲉⲥϩⲓⲙⲉ  「彼女はその女です。」
  6. ⲁⲛⲟⲛ ϩⲉⲛⲓⲟⲩⲇⲁⲓ̈  「我々はユダヤ人たちです」
  7. ⲛ̄ⲧⲱⲧⲛ̄ ⲛⲉϩⲣⲱⲙⲁⲓⲟⲥ  「あなた方がそれらのローマ人たちです」
  8. ⲛ̄ⲧⲟⲟⲩ ⲛ̄ⲣⲙ̄ⲛ̄ⲕⲏⲙⲉ    「彼らはそれらのエジプト人たちです。」

(主語)人称接頭辞

単数複数
1人称ϯ- (ⲧ-ⲓ-)「私が」ⲧⲛ̄- (ⲧ-ⲛ̄-)「私たちが」
2人称ⲕ-(男)「貴男が」・ⲧⲉ-(女)(ⲧ-ⲉ-)「貴女が」ⲧⲉⲧⲛ̄- (ⲧⲉ-ⲧⲛ̄-)「あなた方が」
3人称ϥ-(男)「彼が」・ⲥ-(女)「彼女が」ⲥⲉ-「彼らが」

1人称単数、2人称単数女性、1人称複数、2人称複数は、ⲧ-に人称接尾辞が付いた形、2人称男性単数と3人称単数男性と女性は人称接尾辞そのままの形、3人称複数は人称接尾辞とはかなり異なる形である。

コプト語の動詞述語文には、「持続文」と「非持続文」の違いがあるが、この「持続文」において、人称接頭辞は主語を表す。また、後で習うが、前置詞句や副詞が述語になったときの主語としても使える。

練習問題

次の文章を発音して訳してください。ヒント:ⲥⲱⲧⲙ̄「聞く」 ϩⲛ̄ⲣⲁⲕⲟⲧⲉ 「アレクサンドリアで」

  1. ϯⲥⲱⲧⲙ̄ 「私は聞いている」
  2. ⲕ̄ⲥⲱⲧⲙ̄「あなた(男)は聞いている」
  3. ⲧⲉⲥⲱⲧⲙ̄「あなた(女)は聞いている」
  4. ϥ̄-ϩⲛ̄-ⲣⲁⲕⲟⲧⲉ 「彼はアレクサンドリアにいる。」(副詞述語文)
  5. ⲥ̄ϩⲛ̄ⲣⲁⲕⲟⲧⲉ 「彼女はアレクサンドリアにいる。」
  6. ⲧⲛ̄ⲥⲱⲧⲙ̄ 「私たちは聞いている」
  7. ⲧⲉⲧⲛ̄ⲥⲱⲧⲙ̄「あなたがたは聞いている」
  8. ⲥⲉⲥⲱⲧⲙ̄「彼らは聞いている」

拘束人称代名詞(独立人称代名詞縮約形)

サイード方言には、1人称・2人称でしか用いられない、独立人称代名詞の縮約形がある。これらは音韻論的に、後続の語に拘束されるため(アクセントを持たない)、もはや独立人称代名詞とは呼べない。名詞述語文の主語として使われる。独立代名詞と同時に用いれば、名詞述語文の主語が強調・トピック化される。

単数複数
1人称ⲁⲛⲅ̄- 「私は〜です」ⲁⲛ- / ⲁⲛⲛ̄- 「私たちは〜です」
2人称ⲛ̄ⲧⲕ̄-(男)・ⲛ̄ⲧⲉ-(女)「あなたは〜です」ⲛ̄ⲧⲉⲧⲛ̄- 「あなたたちは〜です」

拘束人称代名詞は、名詞述語文の主語でのみ用いられる。1人称と2人称しかない。

この時、名詞述語文の述語は不定名詞に類するもの(不定冠詞付き名詞や疑問代名詞など)がほとんど。また、独立代名詞を前置させて、強調やトピックの意味を持たせることができる。

練習問題 ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ 「天使」

  1. ⲁⲛⲅ̄-ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ 「私は天使です。」
  2. ⲛ̄ⲧⲟⲕ ⲛ̄ⲧⲕ̄-ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ「あなた(男)といえば、あなたは天使です。」
  3. ⲛ̄ⲧⲉ-ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ 「あなた(女)は天使です。」
  4. ⲁⲛⲛ̄-ϩⲉⲛ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ「私たちは天使たちです。」
  5. ⲛ̄ⲧⲱⲧⲛ̄ ⲛ̄ⲧⲉⲧⲛ̄-ϩⲉⲛ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ 「あなた方といえば、あなた方は(とある)天使たちです。」

疑問代名詞

日本語の「何」や「誰」や「どれ」に相当する。コプト語には4種類の疑問代名詞がある。

ⲁϣ 「どれ、何」

ⲟⲩ 「何、何の種類」

ⲛⲓⲙ 「誰、どちら」

ⲟⲩⲏⲣ「いくら、いくつ」

練習問題

  1. ⲁⲛⲅ̄ⲟⲩ? 「私は何者だ?」
  2. ⲛ̄ⲧⲟⲕ ⲛⲓⲙ?「あなたは(男)は誰ですか?」 

指示代名詞

指示代名詞は指示冠詞の母音を変えただけであるが、文法上は、指示代名詞は、何も修飾せず、音韻的にも文法的にも自立語であり、それ自体は主として名詞類として扱われる。この点で、常に別の名詞類を修飾し、アクセントを持たない指示冠詞とは異なる。

男性単数女性単数複数
指示代名詞ⲡⲁⲓ̈ⲧⲁⲓⲛⲁⲓ
指示冠詞ⲡⲉⲓ̈-ⲧⲉⲓ̈-ⲛⲉⲓ̈-

上は、通常の指示代名詞だが、指示冠詞と同じく、「感情的な」指示代名詞もある。

男性単数女性単数複数
指示代名詞ⲡⲏⲧⲏⲛⲏ
指示冠詞ⲡⲓ-ⲧⲓ-ⲛⲓ-

練習問題

  1. ⲛ̄ⲧⲟⲕ ⲡⲁⲓ 「あなた(男)はこれだ」
  2. ⲛ̄ⲧⲟϥ ⲡⲓ-ⲭⲣⲓⲥⲧⲟⲥ 「彼はかのキリストだ」ハリストス 
  3. ⲛ̄ⲧⲟⲟⲩ ⲛⲉⲓ̈-ϩⲣⲱⲙⲁⲓⲟⲥ「彼らはこのローマ人たちだ」
  4. ⲁⲛⲟⲛ ⲛⲁⲓ「私たちはこれらです」
  5. ⲧⲏ ⲛ̄ⲧⲟ「これ(感情的)があなた(女)だ」

ネクサス代名詞(コピュラ)

ネクサス代名詞は、元々は指示代名詞でしたが、指示代名詞としての機能を半ば失い、ほとんどコピュラのようになってしまったものです。主に名詞述語文で使われます。この際、述語名詞は大抵定(定冠詞つき、固有名詞、指示代名詞など)です。

(1)コピュラパターン
「主語名詞 ネクサス代名詞 述語名詞」では、「主語名詞 = 述語名詞」の「=」の役割(コピュラ)

(2)代名詞+コピュラパターン
「述語名詞 ネクサス代名詞」では、ネクサス代名詞が3人称主語となり、「彼・彼女・彼らは」という3人称代名詞の役割も果たす。

男性単数女性単数複数
ⲡⲉⲧⲉⲛⲉ

例:

(1)のパターン:ⲁⲛⲟⲕ ⲡⲉ ⲅⲁⲃⲓⲣⲏⲗ. ⲁⲛⲟⲕ ⲅⲁⲃⲣⲓⲏⲗ ⲡⲉ. 「私はガブリエルである」

(2)のパターン:ⲅⲁⲃⲣⲓⲏⲗ ⲡⲉ. 「彼はガブリエルである」

練習問題

  1. ⲛ̄ⲧⲟ ⲙⲁⲣⲓϩⲁⲙ ⲧⲉ. 「貴女はマリアです。」
  2. ⲡ(定・単男)-ⲣⲱⲙⲉ(男、人) ⲡⲉ(定・単男)-ⲭⲣⲓⲥⲧⲟⲥ(キリスト) ⲡⲉ(です・単男). 「その男はキリストです。」
  3. ⲛ̄ⲧⲟⲟⲩ(彼ら) ⲛ̄(定・複)-ϩⲣⲱⲙⲁⲓⲟⲥ(ローマ人) ⲛⲉ(です・複).「彼らはローマ人です。」
  4. ⲡⲁⲓ̈(これ・彼) ⲡⲉ ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ.「これはその天使である。」
  5. ⲡⲁ-ⲣⲁⲛ ⲡⲉⲧⲣⲟⲥ ⲡⲉ. ⲣⲁⲛ=名前 「私の名前はペテロです。」
  6. ⲡⲉⲕⲣⲁⲛ ⲛⲓⲙ?「貴男の名前はなんですか?」
  7. ⲡⲉⲧⲣⲟⲥ ⲡⲉ. 「彼はペテロです。」
  8. ⲙⲁⲣⲓϩⲁⲙ ⲧⲉ. 「彼女はマリアです。」
  9. ⲛ̄ⲓ̈ⲟⲩⲇⲁⲓ ⲛⲉ. 「彼らはそれらのユダヤ人たちです。」


第6回

1 形容詞と数詞 2 動詞の種類


形容詞

(1)本来の形容詞の語順
  1. 名詞 — 形容詞

このパターンを取れる形容詞類、 ϣⲏⲙ 「小さい」、ⲛⲓⲙ 「あらゆる、すべての」、ⲥⲛⲁⲩ / ⲥⲛ̄ⲧⲉ 「2つの」

ϣⲏⲣⲉ ϣⲏⲙ 「小さい男児(=乳幼児)」

ϣⲏⲣⲉ ⲛⲓⲙ 「あらゆる/すべての男児」

ϣⲏⲣⲉ ⲥⲛⲁⲩ 「二人の男児」

(2)ほとんどの形容詞の語順

2a. 名詞 — リンカー-(名詞化された)形容詞

もしくは

2b. (名詞化された)形容詞 — リンカー-名詞

リンカーは属格標識ⲛ̄-と同じ形式である。

ⲡ-ⲟⲉⲓⲕ ⲙ̄-ⲙⲉ 「真実のパン」 ⲙⲉ 「真実」

ⲡ-ⲁⲅⲁⲑⲟⲥ ⲛ̄-ⲣⲱⲙⲉ

holy house 聖なる家 神聖な家 

また、「関係節標識+動詞状態形」も形容詞的な意味をとる。

ⲡⲉ-ⲡⲛⲉⲩⲙⲁ ⲉⲧ-ⲟⲩⲁⲁⲃ「聖なる霊=聖霊」

ⲡⲛⲉⲩⲙⲁ 「霊」 ⲉⲧ- 関係節マーカー ⲟⲩⲁⲁⲃ:ⲟⲩⲟⲡ 「浄める」の状態形ⲟⲩⲁⲁⲃ「浄められた、聖なる」

数詞が名詞を修飾するとき、1と2以外は、2bのパターンをとる。このとき、冠詞は単数形を取り、名詞は複数形を取らない。

ⲟⲩ-ⲥⲟⲛ 「一人の兄弟」 ⲟⲩ-ⲥⲟⲛ ⲛ̄-ⲟⲩⲱⲧ 「唯一の兄弟」 ⲟⲩ-ⲛⲟⲩⲧⲉ ⲛ̄-ⲟⲩⲱⲧ 「唯一の神」

ⲥⲟⲛ ⲥⲛⲁⲩ 「二人の兄弟たち」 ⲡ(単男)-ⲥⲟⲛ ⲥⲛⲁⲩ 「それらの二人の兄弟たち」

ϣⲟⲙⲛ̄ⲧ ⲛ̄ⲥⲟⲛ 「三人の兄弟たち」 ⲡϣⲟⲙⲛ̄ⲧ ⲛ̄ⲥⲟⲛ 「それらの三人の兄弟たち」

ϥⲧⲟⲟⲩ(4) ⲛ̄-ⲥⲟⲛ 「四人の兄弟たち」 ⲡⲉ-ϥⲧⲟⲟⲩ ⲛ̄-ⲥⲟⲛ 「それらの四人の兄弟たち」

ϯⲟⲩ ⲛ̄-ⲥⲟⲛ 「五人の兄弟たち」 ⲡ-ϯⲟⲩ ⲛ̄-ⲥⲟⲛ 「それらの五人の兄弟たち」

以下は主な数詞のリストである。数詞は男性形と女性形がはっきり分かれている。

男性形女性形
ⲟⲩⲁⲟⲩⲉⲓ
ⲥⲛⲁⲩⲥⲛ̄ⲧⲉ
ϣⲟⲙⲛ̄ⲧϣⲟⲙⲧⲉ
ϥⲧⲟⲟⲩϥⲧⲟ / ϥⲧⲟⲉ
ϯⲟⲩϯ / ϯⲉ
ⲥⲟⲟⲩⲥⲟ / ⲥⲟⲉ
ϣⲁϣϥ̄ϣⲁϣϥⲉ
ϣⲙⲟⲩⲛϣⲙⲟⲩⲛⲉ
ⲯⲓⲥⲯⲓⲧⲉ
10ⲙⲏⲧⲙⲏⲧⲉ
11ⲙⲏⲧⲟⲩⲁⲙⲏⲧⲟⲩⲉⲓ
12ⲙⲏⲧⲥⲛⲁⲩⲙⲏⲧⲥⲛ̄ⲧⲉ

練習問題

(1)ⲡ-ⲣⲱⲙⲉ ⲛ̄-ⲁⲅⲁⲑⲟⲥ 「その正しい男」 ヒント「正しい」

(2)ⲡ-ϣⲏⲣⲉ ϣⲏⲙ「小さい男児」 

(3)ⲡⲉ-ⲡⲛⲉⲩⲙⲁ ⲉⲧ(関係節)ⲟⲩⲁⲁⲃ(動詞状態形) 「聖なる霊=聖霊」三位一体

(4)ⲧ-ϣⲉⲉⲣⲉ ϣⲏⲙ「小さい女児」

(5)「五人の男」 ⲡϯⲟⲩ ⲛ̄ⲣⲱⲙⲉ

(6)「二人の娘」ⲧϣⲉⲉⲣⲉ ⲥⲛ̄ⲧⲉ

(7)ⲡⲉ-ϣⲙⲟⲩⲛ ⲛ̄-ⲥⲟⲛ 「8人の兄弟」

(8)ⲡ-ⲁⲅⲁⲑⲟⲥ ⲛ̄-ⲣⲱⲙⲉ 「その善なる男」


動詞

コプト語の動詞には

  1. 不定(詞)形 [infinitive]
  2. 状態形 [stative / qualitative]
  3. 命令形 [imperative]
  4. 分詞形 [participium conjunctum]

がある。

このうち、命令形と分詞形をもつ動詞は非常に少ない。状態形をもつ動詞も一部である。

そのため、まず、1.の不定形を学ぶ。

不定形および命令形(の一部)は、その統語形態的な位置・機能により3つの種類がある。

  1. 絶対形 [absolute state]
  2. 連語形(前名詞形・名詞接続形) [construct / prenominal state]
  3. 人称形(前代名詞形・代名詞接続形)[personal / prepronominal state]

1.はすべての動詞にある。2.と3.は他動詞のみにあり、2.と3.をもたない他動詞もある。

これらの語形変化は、主に動詞の母音の変化によって示されるが、子音添加や不規則変化などもある。

語形変化のパターンは次回学習する。


不定形

不定形は、名詞としても動詞としても使われる。名詞で使われる場合、「~すること」などの事象を表す。


不定形・絶対形

絶対形は、自立語であり、それ自体が強勢を持つ。目的語は、目的語標識ⲛ̄-/ⲙ̄ⲙⲟ-で統語的に示される。

・ⲥⲱⲧⲡ 「選ぶ」

ⲁ(過去)-ⲓ(私)-ⲥⲱⲧⲡ(選ぶ) ⲙ̄ⲙⲟ(を)-ⲕ(貴男) 「私は貴男を選んだ」
ⲁ-ϥ(彼)-ⲥⲱⲧⲡ [ⲙ̄-ⲡ-ⲣ̄ⲣⲟ(王) ⲛ̄-ⲓⲥⲣⲁⲏⲗ]「彼はイスラエルの王を選んだ」

・ⲉⲓ(イー) 「来る」

ⲁ(過去)-ϥ(彼)-ⲉⲓ(来る) 「彼は来た」


不定形・連語形

連語形は必ず後に目的語の名詞(句)が付き、強勢は目的語の名詞句に依存する。

・ⲥⲉⲧⲡ- 「選ぶ」

ⲁ(過去)-ⲓ(私)-ⲥⲉⲧⲡ(選ぶ)-ⲓⲏⲥⲟⲩⲥ(イエス) 「私はイエスを選んだ」
ⲁ-ϥ(彼)-ⲥⲉⲧⲡ-[ⲡ-ⲣ̄ⲣⲟ(王) ⲛ̄-ⲓⲥⲣⲁⲏⲗ]「彼はイスラエルの王を選んだ」

Differential Object Marking 「示差的目的語標示」


不定形・人称形

人称形は、意味上の目的語である人称接尾辞が必ずつく。動詞の場合は強勢を必ず持つ。

・ⲥⲟⲧⲡ⸗ 「選ぶ」

ⲁ-ⲓ-ⲥⲟⲧⲡ-ⲕ̄ 「私は男を選んだ」


状態形

状態形は、母音の変化で表される。

動作が持続・進行している状態を表す。

その際、インド・ヨーロッパ語族の他動詞・自動詞の基準を用いるならば、他動詞のように働く動詞の状態形は受け身のような意味になることが多い。

・ⲥⲟⲧⲡ† 「選ばれている」(少数の例で「選んでいる」)

ⲕⲥⲟⲧⲡ 「貴方は選ばれている。」(少数の例で「選んでいる」)

・ⲛⲏⲩ :ⲉⲓ「来る」の状態形「来ている」

ϥⲛⲏⲩ 「彼は来ている/来た。」

ⲉⲓⲣⲉ 「する・なる」 状態形 ⲟ

・ⲉⲓⲣⲉ 「する」の状態形ⲟでは ⲛ̄- / mmo= の項をとることがある。他の他動詞の状態形でも、このn- /mmo- (predicative n-)をとることがある。

ⲁ-ⲩ-ⲥⲱⲧⲡ ⲙⲙⲟ-ⲕ ϩⲓⲧⲙ̄-ⲡⲉⲧⲣⲟⲥ

過去-3複-選ぶ を-2単男 によって-ペトロス

彼ら(不定人称)は貴男を選んだ ・ 貴男は彼らに選ばれた

ⲕ-ⲥⲟⲧⲡ

2単男-選ぶ.状態

「貴男は選ばれている」

ⲥ(彼女)-ⲟ(「する」の状態形) ⲛ̄(に/を)-ⲥⲁⲃⲏ(賢者.女) 「彼女は賢者である(賢者をしている)」

ⲡ-ϣⲁϫⲉ ⲛ-ⲛ-ⲉⲧ-ϫⲟⲥⲉ(状態形) ⲛ-ϩⲏⲧ (第一コリント4:19)「心を高く挙げている人々の言葉(=高慢な人々の言葉)」

ⲉ-ϥ-ⲟ(状態形) ⲛ-ⲛⲟⲃⲉ「罪を行いながら」(シェヌーテ A22.YA, pp. 421-428)

ⲛⲧⲉⲣⲉⲡⲛⲁⲩⲕⲗⲏⲣⲟⲥⲛⲁⲩⲉⲡⲉϥϩⲟⲩϫϩϫⲙⲛⲧϩⲉⲉⲧϥϣⲧⲣⲧⲱⲣⲙⲙⲟⲥ
(life.longinus.lucius.04)


練習問題

1「彼は(ϥ-)来た(不定形絶対形)/来た(来ている状態)。」来るⲉⲓ 過去(ⲁ⸗)

ⲁ-ϥ-ⲉⲓ / ϥ-ⲛⲏⲩ

2「彼女はその男を選んだ。」

ⲁ-ⲥ-ⲥⲱⲧⲡ ⲙ-ⲡ-ⲣⲱⲙⲉ / ⲁ-ⲥ-ⲥⲉⲧⲡ-ⲡ-ⲣⲱⲙⲉ.

3「彼は彼女を選んだ。」ⲁ-ϥ-ⲥⲟⲧⲡ-ⲥ / ⲁ-ϥ-ⲥⲱⲧⲡ ⲙⲙⲟ-ⲥ

4「私たちは来ている」ⲧⲛ-ⲛⲏⲩ


第7回

コプト・エジプト語サイード方言の動詞の変化と助動詞について学ぶ


持続文(二部構成文)と非持続文(三部構成文)


持続文(二部構成文)

主語と動詞の二部構成で、動作が持続していることを示す。

主語名詞/主語人称接頭辞 — 動詞不定形絶対形もしくは状態形

「シュテルン=イェルンシュテットの法則」基本、動詞不定形の連語形と人称形は使えない!

(1) 主語が名詞で動詞が不定形絶対形

「その天使は、その町を建てている」

ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ

(2) 主語が名詞で動詞が状態形

ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ⲕⲏⲧ(ⲕⲱⲧ「建てる」の状態形) 「その街は建てられている」

(3) 主語が主語人称接頭辞で動詞が不定形絶対形

ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその町を建てている」

(4) 主語が人称接頭辞で動詞が状態形

ⲥ-ⲕⲏⲧ 「彼女は建てられている」


非持続文(三部構成文)

助動詞と主語と動詞(不定形)の三部構成。

助動詞連語形/人称形 — 主語名詞/人称接辞 — 動詞不定形絶対形/連語形/人称形

過去の助動詞 ⲁ-, ⲁ⸗ (連語形と人称形が同形)

助動詞は連語形と人称形のみ。

連語形の場合は、後ろに主語名詞、人称形の場合は、後ろに人称接辞が来る。

助動詞は、連語形・人称形ともにアクセントを持たない。アクセントは連語形は主語名詞、人称形は、人称接辞の次にくる動詞不定形に置かれる。

(1) 助動詞が連語形で動詞が不定形絶対形

ⲁ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「その天使はその街を建てた」

(2)助動詞が連語形で動詞が不定形連語形

ⲁ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲉⲧ-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「その天使はその街を建てた」

(3) 助動詞が連語形で動詞が不定形人称形

ⲁ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲟⲧ-ⲥ 「その天使は彼女/それを建てた」

(4) 助動詞が人称形で動詞が不定形絶対形

ⲁ-ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てた」

(5) 助動詞が人称形で動詞が不定形連語形

ⲁ-ϥ-ⲕⲉⲧ-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てた」

(6) 助動詞が人称形で動詞が不定形人称形

ⲁ-ϥ-ⲕⲟⲧ-ⲥ 「彼は彼女/それを建てた」

練習問題

1「私たちは(-ⲛ-)その街を (ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ) 建てた(ⲁ-)」(絶対形で)ⲁ-ⲛ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ

2「私たちはその町を建てた」(連語形で)ⲁ-ⲛ-ⲕⲉⲧ-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ

3「私たちはそれ(-ⲥ 街をさして)を建てた」(絶対形で)ⲁ-ⲛ-ⲕⲱⲧ ⲙ̄ⲙⲟ-ⲥ 連語形 ⲛ̄- / 人称形ⲙ̄ⲙⲟ⸗

4「私たちはそれ(街をさして)を建てた」(人称形で)ⲁ-ⲛ-ⲕⲟⲧ-ⲥ

5 「その町は建てられている」(状態形で)ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ⲕⲏⲧ

6 「私たちはその町を建てている」ⲧⲛ̄-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ×ⲧⲛ̄ⲕⲉⲧⲧⲡⲟⲗⲓⲥ


動詞の変化7パターン

第一型 三子音語根 ⲥⲱⲧⲡ (stp), ⲟⲩⲱⲛϩ (wnh), ⲱⲛϩ (’nh)

絶対ⲥⲱⲧⲡ, 連語ⲥⲉⲧⲡ-, 人称ⲥⲟⲧⲡ⸗, 状態ⲥⲟⲧⲡ † 「選ぶ」

絶対ⲟⲩⲱⲛϩ, 連語ⲟⲩⲉⲛϩ-, 人称ⲟⲩⲟⲛϩ⸗, 状態ⲟⲩⲟⲛϩ†「あらわす」

絶対ⲱⲛϩ, 状態ⲟⲛϩ†「生きる」

絶対形ⲱ 連語ⲉ 人称ⲟ 状態ⲟ


第二型 二子音語根 ⲡⲱⲧ (pt), ⲕⲱⲧ (kt), ⲙⲟⲩⲣ (mr)

ⲡⲱⲧ, ⲡⲏⲧ† 「走る」

ⲕⲱⲧ, ⲕⲉⲧ-, ⲕⲟⲧ⸗, ⲕⲏⲧ† (分詞形 ⲕⲁⲧ-)「建てる」

ⲙⲟⲩⲣ, ⲙⲉⲣ-, ⲙⲟⲣ⸗, ⲙⲏⲣ† (分詞形 ⲙⲁⲣ-)「縛る」

絶対形 ⲱ/ⲟⲩ 連語 ⲉ 人称 ⲟ 状態ⲏ


第三型 語中に長母音がある ⲡⲱⲱⲛⲉ, ⲧⲱⲱⲃⲉ

ⲡⲱⲱⲛⲉ, ⲡⲉⲛⲉ-, ⲡⲟⲟⲛⲉ⸗, ⲡⲟⲟⲛⲉ† (分詞形 ⲡⲁⲛⲉ-)「回す」

ⲧⲱⲱⲃⲉ, ⲧⲉⲃⲉ-, ⲧⲟⲟⲃ⸗, ⲧⲟⲟⲃⲉ† 「再び払う」

絶対ⲱⲱ 連語ⲉ 人称ⲟⲟ 状態 ⲟⲟ


第四型 畳音・重複がある(ϣⲧⲟⲣⲧⲣ̄, ⲛⲟϭⲛⲉϭ)

ϣⲧⲟⲣⲧⲣ, ϣⲧⲣⲧⲣ-, ϣⲧⲣⲧⲱⲣ⸗, ϣⲧⲣⲧⲱⲣ† 「混乱させる」

ⲛⲟϭⲛⲉϭ, ⲛⲉϭⲛⲉϭ-, ⲛⲉϭⲛⲟⲩϭ⸗, ?† 「非難する」

ⲥⲕⲟⲣⲕⲣ, ⲥⲕⲣⲕⲣ-, ⲥⲕⲣⲕⲱⲣ⸗, ⲥⲕⲣⲕⲱⲣ/ⲥⲕⲣⲕⲟⲣⲧ†「転がす」

絶対 ⲟ なし/ⲉ 連語 なし/ⲉ 人称 なし/ⲉ ⲱ/ⲟⲩ 状態形 なし ⲱ /ⲟ…ⲧ


第五型 使役接頭辞ⲧ- (ϫ-) がある(ⲧⲁⲙⲟ, ⲧⲥⲁⲃⲟ, ϫⲡⲟ)

ⲧⲁⲙⲟ, ⲧⲁⲙⲉ-, ⲧⲁⲙⲟ⸗, ?† 「知らせる」(ⲧ- + ⲉⲓⲙⲉ)

ⲧⲥⲁⲃⲟ, ⲧⲥⲁⲃⲉ-, ⲧⲥⲁⲃⲟ⸗, ⲧⲥⲁⲃⲏⲩ† 「教える」(ⲧ- + ⲥⲁⲃⲉ)

ϫⲡⲟ, ϫⲡⲉ-, ϫⲡⲟ⸗, ϫⲡⲁⲉⲓⲧ† 「産む」(ⲧ- + ϣⲱⲡⲉ)

絶対ⲟ 連語ⲉ 人称ⲟ


第六型 状態動詞 (ϩⲗⲟϭ, ⲙ̄ⲕⲁϩ)

ϩⲗⲟϭ, ϩⲟⲗϭ†(分詞形ϩⲁⲗϭ-)「甘くなる」

ⲙⲕⲁϩ, ⲙⲟⲕϩ†「痛くなる」


第七型 人称形で語末にⲧがでる (ϫⲓⲥⲉ, ⲣⲓⲕⲉ, ⲉⲓⲛⲉ)

ϫⲓⲥⲉ, ϫⲉⲥⲧ-, ϫⲁⲥⲧ⸗/ϫⲓⲥⲧ⸗, ϫⲟⲥⲉ†(分詞形ϫⲁⲥⲓ-)「上げる」

ⲣⲓⲕⲉ, ⲣⲉⲕ-, ⲣⲉⲕⲧ⸗, ⲣⲟⲕⲉ/ⲣⲁⲕⲉ†「曲げる」

ⲉⲓⲛⲉ, ⲛ̄-, ⲛ̄ⲧ⸗, ?†「持ってくる」


不規則型(ⲉⲓⲣⲉ, ϯ, ⲥϩⲁⲓ̈, ⲉⲓ)

ⲉⲓⲣⲉ, ⲣ-, ⲁⲁ⸗, ⲟ† (命令形 ⲁⲣⲓⲣⲉ, ⲁⲣⲓ-, ⲁⲣⲓ⸗) 「する、なる」

ϯ, ϯ-, ⲧⲁⲁ⸗, ⲧⲟ†(分詞形ⲧⲁⲓ-, 命令形ⲙⲁ, ⲙⲁ-, ⲙⲁⲧ⸗/ⲙⲏⲉⲓ⸗)「与える」

ⲥϩⲁⲓ, ⲥϩⲁⲓ-/ⲥⲉϩ-, ⲥϩⲁⲓⲥ⸗/ⲥϩⲁⲓⲧ⸗/ⲥⲁϩ⸗/ⲥϩⲁⲓ⸗/ⲥⲁϩⲧ⸗/ⲥⲉϩⲧ⸗, ⲥⲏϩ†「書く」

ⲉⲓ, ⲛⲏⲩ† (命令形 男単ⲁⲙⲟⲩ, 女単ⲁⲙⲏ, 複ⲁⲙⲏⲓⲛ, ⲁⲙⲏⲉⲓⲧⲛ, ⲁⲙⲱⲓⲛⲉ)

練習問題

(1)彼は彼女を選んだ。

(2)貴男は走っている(状態形)

(3)彼はペトロスを混乱させた。

(4)それは痛い(状態形)。

(5)私は手紙を書いた。(手紙ⲧ-ⲉⲡⲓⲥⲧⲟⲗⲏ)

(6)それ(⸗ⲥ)をせよ!

特殊な命令形

性・数変化

ⲉⲓ 「来る」、男単ⲁⲙⲟⲩ, 女単ⲁⲙⲏ, 複ⲁⲙⲏⲉⲓⲧⲛ「来い!」

ⲗⲟ「止まる」、 男単ⲁⲗⲟⲕ, 女単ⲁⲗⲟ, 複ⲁⲗⲱⲧⲛ「止まれ!」

絶対形のみ

ⲛⲁⲩ 「見る」、ⲁⲛⲁⲩ「見ろ!」

絶対形・連語形・人称形

ⲉⲓⲛⲉ「持ってくる」、 ⲁⲛⲓⲛⲉ, ⲁⲛⲓ-, ⲁⲛⲓ⸗「持ってこい!」

ⲉⲓⲣⲉ「する」、 ⲁⲣⲓⲣⲉ, ⲁⲣⲓ-, ⲁⲣⲓ⸗「しろ!」

ϫⲱ「言う」、 ⲁϫⲓ-, ⲁϫⲓ⸗「言え!」

ϯ「与える」, ⲙⲁ, ⲙⲁ-, ⲙⲏⲉⲓ⸗「与えろ!」


第8回

助動詞と転換詞


シュテルン=イェルンシュテットの法則

より正確にいえば、持続文で動詞が不定形連語形になるときは目的語の名詞は必ず裸名詞もしくは不定代名詞ⲗⲁⲁⲩである。

ϥ-ⲛⲉϫ(投げる.連語)-ⲇⲁⲓⲙⲟⲛⲓⲟⲛ(悪霊) ⲉⲃⲟⲗ ϩⲛ̄-ⲃⲉⲉⲗⲍⲉⲃⲟⲩⲗ 「彼はベルゼバブを用いて、悪霊を追い出している」持続文だけど連語形が使われている→ 複合動詞(連語形+裸名詞)

複合動詞

基本的に「動詞連語形+裸名詞」で作られる複合語。名詞抱合。

この時動詞連語形はⲣ̄-「する」, ϫⲓ-「受ける」, ϯ-「与える」 など、軽動詞と呼ばれる幅広い領域をカバーする基本動詞が用いられることが多い。結合価(ある動詞が取れる項の数;項は主語や目的語);複合動詞

ⲣ̄-ⲣ̄ⲣⲟ 「支配する」 ⲣ̄- 「する」ⲣ̄ⲣⲟ「王」

ϯ-ⲃⲁⲡⲧⲓⲥⲙⲁ 「洗礼する」 / ϯ-ⲥⲃⲱ「教える」 ϯ- 「与える」ⲃⲁⲡⲧⲓⲥⲙⲁ「洗礼」ⲥⲃⲱ「教え」

ϫⲓ-ⲃⲁⲡⲧⲓⲥⲙⲁ「洗礼を受ける」 / ϫⲓ-ⲥⲃⲱ「学ぶ」ϫⲓ- 「受ける」

一つだけ、裸名詞を取らない複合動詞がある。

例外 ⲣ̄-ⲡ-ⲙⲉⲉⲩⲉ「覚える」ⲙⲉⲉⲩⲉ「思考」


未来標識 ⲛⲁ-

持続文で、主語と動詞の間にⲛⲁ-を入れると文が未来の意味になる。主語接頭辞の時は、主語接頭辞と未来標識および動詞は続けて描かれるが、主語名詞の時は、主語名詞と未来標識は離して書かれる。

ϥ-ⲛⲁ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てるだろう」

ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲛⲁ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「その天使はその街を建てるだろう」


持続文の否定 否定の接頭辞ⲛ̄⸗ / ⲛ̄- (ⲙ̄⸗ / ⲙ̄-) と 否定辞 ⲁⲛ

現在否定 主語接頭辞 (ⲛ̄⸗)ϥ-ⲕⲱⲧ ⲁⲛ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てない」

現在否定 主語名詞 (ⲙ̄-)ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲁⲛ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「その天使はその街を建てない」

未来否定 主語接頭辞 (ⲛ̄⸗)ϥ-ⲛⲁ-ⲕⲱⲧ ⲁⲛ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てないであろう」

未来否定 主語名詞 (ⲙ̄-)ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲛⲁ-ⲕⲱⲧ ⲁⲛ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「その天使はその街を建てないであろう」


命令「〜せよ」

一部の動詞は特別な命令形を用いるが、それ以外の大多数の動詞は、不定形絶対形のまま、主語の表示なしで命令の意味になる。

ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ! 「その街を建てよ!」

禁止 ⲙ̄ⲡⲣ̄-「〜するな」

ⲙ̄ⲡⲣ̄(禁止)-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ! 「その街を建てるな!」


ⲉ(to)- 不定詞「~するために」

ⲉ(to)-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「街を建てるために」

ⲉ-ⲧⲙ̄- 不定詞「〜しないために」

ⲉ-ⲧⲙ̄(否定)-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ (街を建てないために)


使役 ⲧⲣⲉ- / ⲧⲣⲉ⸗「~に~させる」

使役者 + 使役標識ⲧⲣⲉ + 被使役者/動作主 + 動詞不定形

ⲥ(彼女が)-ⲧⲣⲉ(〜させる)⸗ϥ(彼に)-ⲕⲱⲧ(建て) ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ(その街を)

ⲥ-ⲧⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼女が天使に街を建てさせる」

使役 ⲧⲙ̄-ⲧⲣⲉ- / ⲧⲙ̄-ⲧⲣⲉ⸗「~に~させない」

ⲥ-ⲧⲙ̄(否定)-ⲧⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼女が彼にその街を建てさせない」

ⲥ-ⲧⲙ̄-ⲧⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼女が天使に街を建てさせない」

ⲧⲣⲉ- から作られる従属節

ⲉ-ⲧⲣⲉ-/⸗主語 動詞「主語が動詞するために」

使役の意味がなくなる

ⲉ(ために)-ⲧⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼がその街を建てるために」

ⲉ(ために)-ⲧⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「天使が街を建てるために」

ⲛ̄ⲥⲁ(after)-ⲧⲣⲉ-/⸗主語 動詞「主語が動詞したあと」

ⲛ̄ⲥⲁ(の後で)-ⲧⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼がその街を建てた(る)後で」

ϩⲛ̄(inで)-ⲧⲣⲉ-/⸗主語 動詞 「主語が動詞しながら」

ϩⲛ̄(で)-ⲧⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼がその街を建てながら」


可能 ϣ-「~できる」

ⲛ̄(否定)-ϥ-ⲛⲁ(未来)-ϣ(可能)-ⲧⲣⲉ(使役)⸗ⲥ(彼女に)-ⲕⲱⲧ ⲁⲛ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「彼がその街を建てることができるであろう」

特別な否定形 ⲛⲉϣ-もある


非持続文で使われる助動詞

非持続文の式(助動詞は1つしか使えない)

助動詞 + 主語 + 動詞不定形絶対形/連語形/人称形


過去助動詞 ⲁ- / ⲁ⸗ 「~した」

ⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼はその街を建てた」

ⲁ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使はその街を建てた」

過去否定助動詞ⲙ̄ⲡⲉ- / ⲙ̄ⲡ⸗「〜しなかった」

ⲙ̄ⲡ(過去否定)⸗ϥ̄-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「彼は街を建てなかった」

ⲙ̄ⲡⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使は街を建てなかった」


希求・未来助動詞 ⲉⲣⲉ- / ⲉ⸗ -ⲉ- (接周辞)「~するだろう」

Optativeもしくは第3未来とよばれているが、あまり希求の文脈で使われることは筆者の経験上少ない。

ⲉ⸗ϥ-ⲉ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼が街を建てるだろう(建ててほしい)」

ⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てるだろう(建ててほしい)」

希求・未来否定助動詞(接頭辞)「 ~しないだろう」ⲛ̄ⲛⲉ-/ⲛ̄ⲛⲉ⸗

ⲛ̄ⲛⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼は街を建てないだろう(建てないでほしい)」

ⲛ̄ⲛⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使は街を建てないだろう(建てないでほしい)」


習慣助動詞 ϣⲁⲣⲉ-/ϣⲁ⸗「~する習慣であった」

ϣⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼は街を建てる習慣であった(=よく街を建てたものであった)」

ϣⲁⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使は街を建てる習慣であった(=よく街を建てたものであった)」

習慣否定助動詞 ⲙⲉⲣⲉ-/ⲙⲉ⸗「~しない習慣であった」

ⲙⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼は街を建てない習慣であった。」

ⲙⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使は街を建てない習慣であった」


未然助動詞 ⲙ̄ⲡⲁⲧⲉ-/ⲙ̄ⲡⲁⲧ⸗ 「まだ〜ない」

ⲙ̄ⲡⲁⲧ⸗ϥ̄-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「彼はまだ街を建てていない」

ⲙ̄ⲡⲁⲧⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使はまだ街を建てていない」


祈願助動詞ⲙⲁⲣⲉ-/ⲙⲁⲣ(ⲉ)⸗「〜でありますように / may let X …」

ⲙⲁⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「彼が街を建てますように」

ⲙⲁⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てますように」

祈願否定助動詞 ⲙ̄ⲡⲣ̄ⲧⲣⲉ-/ⲙ̄ⲡⲣ̄ⲧⲣⲉ⸗「〜でありませんように」

ⲙ̄ⲡⲣ̄ⲧⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼が街を建てませんように」

ⲙ̄ⲡⲣ̄ⲧⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てませんように」

これまで習った助動詞は、テンス・アスペクト・ムード関連(英語の助動詞と似ている)

節機能がある助動詞

否定は、主語接頭辞直後もしくは主語名詞の前にⲧⲙ̄-


過去の時の従属節を形成 ⲛ̄ⲧⲉⲣⲉ-/ⲛ̄ⲧⲉⲣ(ⲉ)⸗「〜したとき」

ⲛ̄ⲧⲉⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼が街を建てた時、・・・」

ⲛ̄ⲧⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てた時、・・・」


条件節助動詞 ⲉⲣϣⲁⲛ-/ⲉ⸗ -ϣⲁⲛ-(接周辞) 「〜するなら」

ⲉ⸗ϥ-ϣⲁⲛ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼がその街を建てるなら、・・・」

ⲉⲣϣⲁⲛ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使がその街を建てるなら、・・・」


「〜するまで」節 助動詞ϣⲁⲛⲧⲉ-/ϣⲁⲛⲧ⸗

ϣⲁⲛⲧ⸗ϥ̄-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼が街を建てるまで・・・」

ϣⲁⲛⲧⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てるまで・・・」


接続節助動詞「そして〜」(前の節と同じ時制・相・法になる)ⲛ̄ⲧⲉ-/ⲛ̄⸗

ⲁⲗⲟⲕ(止まれ) ⲛ̄⸗ⲅ(ⲕ- 貴男)-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「止まれ。そして、街を建てろ。」

ⲁ-ⲡⲉⲧⲣⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲙ̄-ⲡ-ⲏⲓ· ⲛ̄ⲧⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ 「そして、天使が建て・・・」


目的節形成(未来接続)助動詞 ⲧⲁⲣⲉ- / ⲧⲁⲣ(ⲉ)⸗ 「〜するために」

ⲧⲁⲣⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼が街を建てるために、・・・」

ⲧⲁⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使が街を建てるために、・・・」

ⲛⲁ-(未来)は助動詞と一緒に使えないが、

ϣ-(可能), ⲧⲣⲉ-(使役)は助動詞と一緒に使える


転換詞

文の先頭におかれ(助動詞の前、名詞文の前など)、アクセントは持たない。転換詞は連語形と人称形のみある。

絶対形はいつもアクセントあり、連語形はいつもアクセントなし、人称形のアクセントは、品詞による。

・絶対形/連語形/人称形の違いがある品詞・・・動詞の不定形(一部の命令形)

・連語形/人称形の違いがある品詞・・・転換詞(人称形はアクセントなし)・助動詞(人称形はアクセントなし)・前置詞・特殊な動詞(主語が接尾する動詞)、特殊な身体部位名詞

・連語形のみ・・・動詞の分詞形

・絶対形のみ・・・動詞状態形

・絶対形/連語形・・・名詞の一部

代名詞は色々

時制や節関係を変化させたり、焦点化の役割などがある。

・転換詞 + 名詞述語文

・転換詞+動詞述語文

(持続文の場合)転換詞+主語+動詞不定形/状態形

(非持続文の場合)転換詞 + 助動詞 + 主語 + 動詞不定形

時制を一つ前にする転換詞 ⲛⲉ- / ⲛⲉ⸗ (ⲡⲉとしばしば同伴)

ⲛⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼は街を建てていた」(過去進行)

ⲛⲉ-ⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ (大過去)「彼は街を建てた」


状況節を形成する転換詞 ⲉⲣⲉ-主語名詞句 / ⲉ-(助動詞の前で) / ⲉ⸗ 「〜が〜する間、〜している時、〜しながら、〜なので、〜て」

converb (副動詞)とも呼ばれる

ⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ …「彼がその街を建てながら/建てて・・・」

ⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「天使がその街を建てながら・・・」

ⲉ-ⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ「彼がその街を建てて/建てながら」


副詞・前置詞句を焦点化する転換詞 ⲉⲣⲉ- / ⲉ⸗ 「〜が〜するのは〜でである」, (過去のⲁ⸗と融合して) ⲛ̄ⲧⲁ- / ⲛ̄ⲧⲁ⸗ 「〜が〜したのは〜でであった」

*Brankaer (2010)では過去の副詞・前置詞句の焦点化の転換詞と関係節化の転換詞はⲛ̄ⲧⲉ-になっている。

ⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ϩⲛ̄-ⲕⲏⲙⲉ「彼が街を建てたのはエジプトでである。」

ⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ϩⲛ̄-ⲕⲏⲙⲉ「その天使が街を建てているのはエジプトでである。」

ⲛ̄ⲧⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ϩⲛ̄-ⲕⲏⲙⲉ「彼が街を建てたのはエジプトでであった。」

ⲛ̄ⲧⲁ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ϩⲛ̄-ⲕⲏⲙⲉ「その天使が街を建てたのはエジプトでであった。」

ⲉⲣⲟ⸗ϥ 彼に ⲁⲣⲁ⸗ϥ

昔は、機能がよくわかっておらず、「第二時制」と呼ばれていた。


関係節転換詞 文を関係節にする ⲉⲧ- / ⲉⲧ⸗ / ⲉⲧⲉ- / ⲉⲧⲉⲣⲉ- / ⲛ̄ⲧ- …

次回は、関係節、主語接尾辞をとる動詞、反実仮想を勉強したあと、トマスによる福音書の冒頭を読みます。


第9回

関係節化転換詞は多数ある。

通常 ⲉⲧ-動詞・前置詞句 / ⲉⲧ⸗人称接辞 / (ⲉⲧⲉ-コピュラ文、持続文の否定) / ⲉⲧⲉⲣⲉ-主語名詞句

過去 (ⲉ)ⲛ̄ⲧⲁ- / (ⲉ)ⲛ̄ⲧⲁ⸗ (ⲉⲧ- と ⲁ-が融合)

習慣 ⲉϣⲁ- / ⲉϣⲁ⸗ (ⲉⲧ-とϣⲁ-が融合)

(主語の関係節化)ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ [ ⲉⲧ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ]「その街を建てている天使」

再述代名詞 (難易度⭐︎⭐︎⭐︎)

ⲉⲧ-を使った場合での主語の関係節化以外の関係節化は、再述代名詞が 関係節内に必要

(場所の関係節化)ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ [ ⲉⲧⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲙ̄-ⲡ-ⲏⲓ(家) ⲛ̄ϩⲏⲧ(〜の中で)⸗ⲥ ]「その天使がその中で家を建てているところの街」

(目的語の関係節化)ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ [ ⲉⲧⲉⲣⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ ⲕⲱⲧ ⲙ̄ⲙⲟ(を)⸗ⲥ(彼女・それ) ]「その天使が(それ・彼女を)建てている街」

ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ [ ⲛ̄ⲧⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲙ̄-ⲡ-ⲏⲓ ]「その家を建てた天使」

ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ [ ⲉϯ-ⲛⲁ(未来)-ⲃⲱⲕ(行く) ⲉⲣⲟ(〜に)⸗ⲥ ] 「私が(そこに)行くつもりであるところの街」

関係節化転換詞 と 状況節化転換詞

状況節も関係節として用いられる。

ルール

定名詞 + 関係節化転換詞

不定名詞 + 状況節化転換詞

ⲡ(定)-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ [ ⲛ̄ⲧ(関係節化転換詞)-ⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ]「その街を建てた天使」

ⲟⲩ(不定)-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ [ ⲉ(状況節化転換詞)-ⲁ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ̄-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ] 「その街を建てたとある天使」

体言化された関係節

定冠詞をつかって体言化

ⲧ-[ⲉⲧ-ⲕⲏⲧ] 「建てられているもの(女性名詞)」

ⲡ-ⲉⲧ-ⲕⲱⲧ ⲙ̄ⲙⲟ-ⲥ 「それを建てている者(男性名詞)」

p-et-Vの一部は、語彙化され、さらにその前に冠詞がつくことができる。

ⲡ-ⲡⲉⲧⲟⲩⲁⲁⲃ 「その聖者」

ⲟⲩ-ⲡⲉⲧϩⲟⲟⲩ 「とある悪者」

ⲡⲉⲧ- : 体言化接頭辞

主語接尾辞をとる動詞

いくつかの動詞は人称接尾辞を主語としてとる。さらに特殊な目的語人称接尾辞をとる。

これらの動詞は絶対形をもたず、連語形と人称形のみである。

Layton 2011の文法書では”verboid”(準動詞)

ⲛⲁⲛⲟⲩ- / ⲛⲁⲛⲟⲩ⸗ 「〜は美しい、完璧だ、良い」

ⲡⲉϫⲉ- / ⲡⲉϫⲁ⸗ 「〜が言った、曰く」

存在動詞 ⲟⲩⲛ̄- 「~が存在する、がある」 ⲟⲩⲛ̄-A ⲛ̄ⲧⲉ- / ⲛ̄ⲧⲁ⸗B 「BにはAがある」

否定の存在動詞 ⲙⲛ̄- 「〜が存在しない、〜がない」

所有動詞 ⲟⲩⲛ̄ⲧⲉ-A Ⲃ / ⲟⲩⲛ̄ⲧⲁ⸗A Ⲃ 「AはBを持っている」

否定の所有動詞 ⲙⲛ̄ⲧⲉ-A Ⲃ / ⲙⲛ̄ⲧⲁ⸗A Ⲃ 「AはBを持っていない」

ⲛⲁⲛⲟⲩ(美しい)⸗ϥ 「彼は美しい」 / ⲛⲁⲛⲟⲩ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ「その天使は美しい」

ⲡⲉϫⲉ-ⲡ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ 「その天使は言った」 / ⲡⲉϫⲁ⸗ϥ ϫⲉ… 「彼は言った」

ϫⲱ「言う」> ϫⲉ… 「〜と」(引用標識・補文標識)

ⲟⲩⲛ̄-ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ「ある天使がいる」

ⲙⲛ̄-ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲅⲉⲗⲟⲥ「天使がいなかった」

主語人称接尾辞の後につく特別な目的語人称接尾辞

単数複数
一人称⸗ⲧ ⸗ⲥⲛ
二人称男性 ⸗ⲕ, ⸗ⲥⲕ, ⸗ⲧⲕ / 女性 なし⸗ⲧⲏⲩⲧⲛ̄
三人称男性 ⸗ϥ, ⸗ⲥϥ / 女性 ⸗ⲥ⸗ⲥⲉ, ⸗ⲥⲟⲩ

ⲟⲩⲛ̄ⲧⲁ⸗ϥ⸗ⲥ「それを彼が持っている」

ⲙⲛ̄ⲧⲁ⸗ⲛ(私たち)⸗ⲥⲉ(それら) 「私たちはそれらを持っていない」

分裂文(焦点構文)

焦点化転換詞以外にも文の要素を焦点化する方法はある。関係節もしくは状況節とゼロコピュラもしくはネクサス代名詞を組み合わせる。

ⲡⲁⲓ ⲡⲉ-ⲛⲧ-ⲁ⸗ⲥ-ϫⲟⲟ⸗ϥ 「彼女がいったことはこれだ」

ⲛ̄ⲧⲟⲕ [ ⲉⲧ-ϫⲱ ⲙ̄ⲙⲟ⸗ⲥ ] (マタイ27:11) 「それを言っているのはあなただ」

ⲟⲩ-ⲁⲅⲅⲉⲗⲟⲥ (ⲡⲉ) [ ⲉ⸗ϥ-ⲕⲱⲧ ⲛ-ⲧ-ⲡⲟⲗⲓⲥ ]「その街を建てているのはある天使だ」

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第10回

統語論のまとめ – トマスによる福音書読解

「東外大OA「コプト・エジプト語初級II」」への4件のフィードバック

  1. 第2回の魔術文書(一つ目と三つ目)はパリンプセストのようですが、何の文書の再利用なのでしょうか?

    返信
    • 出典が示されているので質問の前に確認すべきだったかと思いますが、三枚目の下の文書は宗教文書(聖書日課)とのことでした
      > Inhalt: Zauberbuch (Lobpreis des Erzengels Michael), Palimpsest, unterer Text ein liturgisches Perikopenbuch.
      https://digi.ub.uni-heidelberg.de/diglit/p_kopt_686

      一枚目も同様に直交しているアンシャル体の(裏返っていない)文字が見えるのですが、これは違うのでしょうか? 鏡文字の文書の裏写りなら単なるパリンプセストより更に面白いと思います。

      返信
      • パリンプセストを見破るとはすごいですね。最初パリンプセストかなと思ってコメントをお書きしたのですが、裏写りしているところが目についたので、あまりよく考えず、ちがうわと思ってそのコメントを消して、よくあるインクの裏写りだと書きなおしました。でも、すみません、確かに、パリンプセストもインクの裏写りも両方ありますね。というか、よこに書かれてあるし、反転もしていないので、パリンプセストであることは明白ですね。失礼しました。1枚目は調べてみると、コプト語のレクショナリーのパリンプセストであるようです。Hans Queckeのこれに関する論文があるみたいですね。教えてくださり、ありがとうございます。http://www.rzuser.uni-heidelberg.de/~gv0/Papyri/K0685_Meyer/K0685_Meyer.html?fbclid=IwAR0andhephAlCJ4E7uRF6_gdA5pj7ZtOmvxQ6slYwkiB22Db-SO3JEp_BnY

        返信
        • いえいえ、こちらこそお手間を取らせてしまってすみません。
          (何が書いてあるかはまだ読めないのですが、文字の形だけは見慣れているので……)
          一枚目の方も下の文書はキリスト教の文書なんですね。
          論文の情報等教えてくださりありがとうございます!

          返信

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